三角形の面積を求めるとき、通常は「底辺×高さ÷2」という公式を使います。
しかし、三角形の3辺の長さだけが分かっていて、高さが分からない場合はどうすればよいのでしょうか?
そんなときに役立つのが、ヘロンの公式です。
ヘロンの公式を使えば、三角形の3辺の長さだけから面積を求めることができます。
この記事では、ヘロンの公式の使い方を具体例とともに説明した後、余弦定理を使って公式を証明します。
特に証明では、途中式をできるだけ省略せず、「なぜその式変形をするのか」まで丁寧に解説していきます。
1. ヘロンの公式とは?
ヘロンの公式とは、三角形の3辺の長さから面積を求める公式です。
三角形 \(ABC\) の3辺の長さを、
\[ BC=a,\quad CA=b,\quad AB=c \]
とし、面積を \(S\) とします。

ここで、3辺の長さの合計の半分を \(s\) とします。
\[ \boxed{s=\frac{a+b+c}{2}} \]
この \(s\) を使うと、三角形の面積 \(S\) は次のように表せます。
\[ \color{red}{S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}} \]
これがヘロンの公式です。
なお、\(s\) は三角形の周の長さの半分なので、半周長と呼ばれます。
ヘロンの公式の特徴は、底辺に対する高さや角度が分からなくても、3辺の長さだけで面積を求められることです。
2. ヘロンの公式の使い方・計算例
実際にヘロンの公式を使って、三角形の面積を求めてみましょう。
まず、半周長 \(s\) を求めます。
\[ \begin{aligned} s&=\frac{13+14+15}{2}\\ &=\frac{42}{2}\\ &=21 \end{aligned} \]
次に、ヘロンの公式に代入します。
\[ S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)} \]
\[ \begin{aligned} S&=\sqrt{21(21-13)(21-14)(21-15)}\\ &=\sqrt{21\cdot8\cdot7\cdot6}\\ &=\sqrt{7056}\\ &=\boxed{84} \end{aligned} \]
したがって、三角形の面積は \(84\) となります。
まず、半周長 \(s\) は、
\[ s=\frac{5+5+6}{2}=8 \]
となります。
ヘロンの公式に代入すると、
\[ \begin{aligned} S&=\sqrt{8(8-5)(8-5)(8-6)}\\ &=\sqrt{8\cdot3\cdot3\cdot2}\\ &=\sqrt{144}\\ &=\boxed{12} \end{aligned} \]
したがって、三角形の面積は \(12\) となります。
このように、ヘロンの公式を使うと、高さを求めることなく三角形の面積を計算できます。
ただし、二等辺三角形や直角三角形などでは、通常の面積公式の方が簡単に計算できる場合もあります。
3. ヘロンの公式の証明・導出
ここからは、ヘロンの公式がなぜ成り立つのかを証明していきます。

証明には、次の2つの公式を使用します。
① 三角形の面積公式
\[ S=\frac12 ab\sin C \]
② 余弦定理
\[ c^2=a^2+b^2-2ab\cos C \]
この2つの公式から出発し、最終的にヘロンの公式を導きます。
3.1 三角形の面積公式を変形する
まず、三角形の面積公式から出発します。
\[ S=\frac12 ab\sin C \]
この式の両辺を2乗すると、
\[ S^2=\frac14 a^2b^2\sin^2 C \]
となります。
ここで、三角関数の基本公式
\[ \sin^2 C+\cos^2 C=1 \]
より、
\[ \sin^2 C=1-\cos^2 C \]
が成り立ちます。
これを先ほどの式に代入すると、
\[ S^2=\frac14 a^2b^2(1-\cos^2 C) \]
となります。
両辺を16倍すると、
\[ \boxed{16S^2=4a^2b^2(1-\cos^2 C)} \]
が得られます。
なぜ16倍するのでしょうか?
この後、余弦定理を使って \(\cos C\) を消去すると、分母に \(4a^2b^2\) が現れます。
あらかじめ両辺を16倍しておくことで、分母を打ち消し、式を整理しやすくするためです。
なお、16倍せずに計算を進めても、最終的には同じヘロンの公式を導くことができます。
ここまでの変形では、三角関数の基本公式を使って \(\sin C\) を \(\cos C\) に置き換えました。
次は余弦定理を使い、角度 \(C\) を含む項を取り除きます。
3.2 余弦定理を代入する
余弦定理より、
\[ c^2=a^2+b^2-2ab\cos C \]
が成り立ちます。
これを \(\cos C\) について解きます。
まず、両辺を整理すると、
\[ 2ab\cos C=a^2+b^2-c^2 \]
したがって、
\[ \boxed{\cos C=\frac{a^2+b^2-c^2}{2ab}} \]
となります。
これを3.1で求めた式
\[ 16S^2=4a^2b^2(1-\cos^2 C) \]
に代入します。
\[ \begin{aligned} 16S^2 &=4a^2b^2\left\{1-\left(\frac{a^2+b^2-c^2}{2ab}\right)^2\right\}\\ &=4a^2b^2\left\{1-\frac{(a^2+b^2-c^2)^2}{4a^2b^2}\right\}\\ &=4a^2b^2-(a^2+b^2-c^2)^2 \end{aligned} \]
よって、
\[ \boxed{16S^2=4a^2b^2-(a^2+b^2-c^2)^2} \]
が得られました。
これで、面積を辺の長さ \(a,b,c\) だけで表すことができました。
ただし、このままではヘロンの公式の形になっていません。
そこで、次に右辺を因数分解していきます。
3.3 平方の差を利用して因数分解する
ここがヘロンの公式の証明で、特に重要な部分です。
先ほど求めた式は、
\[ 16S^2=4a^2b^2-(a^2+b^2-c^2)^2 \]
でした。
右辺を見ると、2つの平方の差になっていることが分かります。
そこで、次の因数分解公式を使います。
\[ \boxed{X^2-Y^2=(X+Y)(X-Y)} \]
ここで、
\[ X=2ab,\qquad Y=a^2+b^2-c^2 \]
と考えると、
\[ \begin{aligned} 16S^2 &=(2ab)^2-(a^2+b^2-c^2)^2\\ &=\{2ab+(a^2+b^2-c^2)\}\\ &\quad\times\{2ab-(a^2+b^2-c^2)\} \end{aligned} \]
となります。
それぞれの括弧の中を整理しましょう。
まず、1つ目の括弧は、
\[ \begin{aligned} 2ab+(a^2+b^2-c^2) &=a^2+2ab+b^2-c^2\\ &=(a+b)^2-c^2 \end{aligned} \]
となります。
一方、2つ目の括弧は、
\[ \begin{aligned} 2ab-(a^2+b^2-c^2) &=2ab-a^2-b^2+c^2\\ &=c^2-(a^2-2ab+b^2)\\ &=c^2-(a-b)^2 \end{aligned} \]
となります。
したがって、
\[ 16S^2=\{(a+b)^2-c^2\}\{c^2-(a-b)^2\} \]
が得られます。
ここで、再び平方の差による因数分解を利用します。
\[ \begin{aligned} (a+b)^2-c^2 &=(a+b+c)(a+b-c) \end{aligned} \]
また、
\[ \begin{aligned} c^2-(a-b)^2 &=\{c+(a-b)\}\{c-(a-b)\}\\ &=(a-b+c)(-a+b+c) \end{aligned} \]
となります。
以上より、
\[ \boxed{ \begin{aligned} 16S^2 &=(a+b+c)(a+b-c)\\ &\quad\times(a-b+c)(-a+b+c) \end{aligned} } \]
が得られました。
なぜ平方の差による因数分解を繰り返したのでしょうか?
それは、ヘロンの公式に登場する
\[ s,\quad s-a,\quad s-b,\quad s-c \]
という4つの因数を作り出すためです。
実際に、次の節でこれらの因数が現れることを確認しましょう。
3.4 半周長を導入してヘロンの公式を完成させる
ここで、半周長 \(s\) を次のように定義します。
\[ s=\frac{a+b+c}{2} \]
この式から、
\[ a+b+c=2s \]
が成り立ちます。
また、
\[ \begin{aligned} a+b-c &=(a+b+c)-2c\\ &=2s-2c\\ &=2(s-c) \end{aligned} \]
同様に、
\[ a-b+c=2(s-b) \]
\[ -a+b+c=2(s-a) \]
が成り立ちます。
これらを3.3で求めた式に代入すると、
\[ \begin{aligned} 16S^2 &=(a+b+c)(a+b-c)\\ &\quad\times(a-b+c)(-a+b+c)\\ &=2s\cdot2(s-c)\cdot2(s-b)\cdot2(s-a)\\ &=16s(s-a)(s-b)(s-c) \end{aligned} \]
となります。
両辺を16で割ると、
\[ S^2=s(s-a)(s-b)(s-c) \]
が得られます。
最後に両辺の平方根を取ります。
三角形の面積 \(S\) は正なので、正の平方根を選ぶことで、
\[ \boxed{S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}} \]
となります。
以上で、ヘロンの公式を証明できました。
4. なぜヘロンの公式では半周長を使うのか?
ヘロンの公式を初めて見ると、
「なぜ3辺の長さの合計ではなく、その半分を使うのだろう?」
と疑問に思うかもしれません。
その理由は、半周長を使うことで、証明の途中に現れた式を簡潔に表せるからです。
実際、先ほどの証明では、
\[ \begin{aligned} 16S^2 &=(a+b+c)(a+b-c)\\ &\quad\times(a-b+c)(-a+b+c) \end{aligned} \]
という式が現れました。
この式は、半周長を使わずに面積 \(S\) について解くと、
\[ \boxed{ S=\frac14\sqrt{(a+b+c)(a+b-c)(a-b+c)(-a+b+c)} } \]
となります。
これもヘロンの公式と同じ内容を表しています。
しかし、半周長
\[ s=\frac{a+b+c}{2} \]
を導入すると、
\[ S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)} \]
と簡潔に表すことができます。
つまり、半周長は突然現れた特別な数値ではなく、証明によって得られた式を整理するための便利な記号なのです。
5. ヘロンの公式を使う際の注意点
ヘロンの公式は便利ですが、どんな三角形でも最も簡単に計算できるとは限りません。
例えば、底辺と高さが分かっている場合は、
\[ S=\frac12\times\text{底辺}\times\text{高さ} \]
を使う方が簡単です。
また、2辺の長さとその間の角度が分かっている場合は、
\[ S=\frac12 ab\sin C \]
を使うとよいでしょう。
| 分かっている情報 | おすすめの面積公式 |
|---|---|
| 底辺と高さ | \(S=\frac12\times\text{底辺}\times\text{高さ}\) |
| 2辺とその間の角度 | \(S=\frac12 ab\sin C\) |
| 3辺の長さ | ヘロンの公式 |
問題で与えられている情報に応じて、適切な公式を選ぶことが大切です。
まとめ
この記事では、ヘロンの公式の使い方と証明について解説しました。
ヘロンの公式は、3辺の長さ \(a,b,c\) から三角形の面積を求める公式です。
半周長を
\[ s=\frac{a+b+c}{2} \]
とすると、面積 \(S\) は、
\[ \boxed{S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}} \]
で求められます。
証明では、三角形の面積公式と余弦定理から出発し、平方の差による因数分解を繰り返すことで、ヘロンの公式を導きました。
特に、証明の途中で現れる
\[ (a+b+c)(a+b-c)(a-b+c)(-a+b+c) \]
という式を、半周長 \(s\) を使って整理することが重要なポイントです。
ヘロンの公式は一見複雑ですが、三角形の面積公式・余弦定理・因数分解という基本的な知識を組み合わせることで導出できます。
公式を暗記するだけでなく、なぜ成り立つのかも理解しておきましょう。