例えば \(n=2\) の場合を考えて見ましょう。
\(n=2\) の場合、「当たる確率が1/2のクジを2回引く時、2回以内に当たる確率」を求めることになります。
この確率は、『2回クジを引いて、全て外れを引く確率の余事象』として求めることができるので、
\begin{eqnarray}
\displaystyle (nが2の場合) &=& 1-\underset{全て外れを引く確率}{\underline{\frac{1}{2}\times\frac{1}{2}}} \\
\displaystyle &=& \frac{3}{4} \\
\displaystyle &=& 75 \% \\
\end{eqnarray}
となり、75%の確率であることがわかります。
同様に、\(n=3\)、\(n=4\) の場合については手計算で求めることができそうですが、\(n=100\) とかになると結構面倒くさそうです。
本記事では、\(n\) の値が大きい場合の確率はどうなるのか? についてまとめてみたいと思います。
目次
■\(n=3, n=4, n=5, n=6\) について求める
まずは一旦、 \(n=3, n=4, n=5, n=6\) について求めてみよう。
\begin{eqnarray}
\displaystyle (nが3の場合) &=& 1-\underset{全て外れを引く確率}{\underline{\frac{2}{3}\times\frac{2}{3}\times\frac{2}{3}}} \\
\displaystyle &=& 1-\frac{8}{27} \\
\displaystyle &=& \frac{19}{27} \\
\displaystyle &\fallingdotseq& 70.4 \% \\
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
\displaystyle (nが4の場合) &=& 1-\underset{全て外れを引く確率}{\underline{\frac{3}{4}\times\frac{3}{4}\times\frac{3}{4}\times\frac{3}{4}}} \\
\displaystyle &=& 1-\frac{81}{256} \\
\displaystyle &=& \frac{175}{256} \\
\displaystyle &\fallingdotseq& 68.4 \% \\
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
\displaystyle (nが5の場合) &=& 1-\underset{全て外れを引く確率}{\underline{\frac{4}{5}\times\frac{4}{5}\times\frac{4}{5}\times\frac{4}{5}\times\frac{4}{5}}} \\
\displaystyle &=& 1-\frac{1024}{3125} \\
\displaystyle &=& \frac{2101}{3125} \\
\displaystyle &\fallingdotseq& 67.2 \% \\
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
\displaystyle (nが6の場合) &=& 1-\underset{全て外れを引く確率}{\underline{\frac{5}{6}\times\frac{5}{6}\times\frac{5}{6}\times\frac{5}{6}\times\frac{5}{6}\times\frac{5}{6}}} \\
\displaystyle &=& 1-\frac{15625}{46656} \\
\displaystyle &=& \frac{31031}{46656} \\
\displaystyle &\fallingdotseq& 66.5 \% \\
\end{eqnarray}
■\(n=1,2,3,4,5,6\) の時の結果から推測できること
ここまで述べてきませんでしたが、 \(n=1\) の時の確率はもちろん 100% となります。
この結果も含めて、\(n=1,2,3,4,5,6\) の時の確率を以下にまとめてみます。
\(n\) 回以内に当たる確率 | \((n-1)\) 回以内に当たる確率との差 | |
\(n=1\) | 100 % | - |
\(n=2\) | 75 % | 25 |
\(n=3\) | 70.4 % | 4.6 |
\(n=4\) | 68.4 % | 2.0 |
\(n=5\) | 67.2 % | 1.2 |
\(n=6\) | 66.5 % | 0.7 |

「\((n-1)\) 回以内に当たる確率との差」が分かりづらいかもしれないので補足すると、例えば \(n=3\) の 4.6 というのは、
\begin{eqnarray}
\displaystyle \underset{n=2の時の確率}{\underline{75}} - \underset{n=3の時の確率}{\underline{70.4}} = 4.6 \\
\end{eqnarray}
として求めた数字となります。
上でまとめた結果から、以下のことが分かるかと思います。
①\(n\) の値が大きくなるにつれて、確率は低くなる
②\(n\) の値が大きくなるにつれて、「\((n-1)\) 回以内に当たる確率との差」は小さくなる
特に重要なのは②です。この②の結果を言い換えると、「\(n\) の値が大きくなるにつれ、確率の変化量はどんどん小さくなる」ということになります。
このことから、『もしかすると、\(n\) を無限にした時、一定の値になるのでは???』と推測ができます。
■\(n\) を大きくしたときの値をグラフで確認してみる
まず、「当たる確率が1/nのクジをn回引く時、n回以内に当たる確率」は以下のようになるため、これを \(f(n)\) と定義します。
\begin{eqnarray}
\displaystyle f(n) &=& 1-\underset{全て外れを引く確率}{\underline{\left(1-\frac{1}{n}\right)^n}} \\
\end{eqnarray}

「上の \(f(n)\) の式がいきなり出てきて分かりづらい!」という方は、\(n=1,2,3,4,5,6\) を実際に代入してみて、先ほど求めた結果と同じになることを確認するといいかも!
\(n\) を大きくしたとき一定値に近づくことを確認するためには、グラフ描写ツールで実際にグラフを描いてみるのが一番早くてわかりやすいかなと思います。
縦軸を”\(f(n)\)”、横軸を”\(n\)”としてグラフを描写してみた結果が以下となります。

上のグラフを見ると、\(n=1\), \(n=2\) のあたりは明確に \(f(n)\) の値が小さくなっている一方、\(n=10\) あたりまで大きくなると、\(f(n)\) の値はほぼ一定値を取っていることが分かるかと思います。
ただ、このグラフだけでは「\(n\) が大きい場合は結局どのような値になるのか?」については、ざっくりしかわかりませんね。
もう少し具体的な値を知りたいので、次の項目で \(f(n)\) の式についてもう少しじっくり見ていきたいと思います。

この後の議論では、ネイピア数 \((e=2.71828・・・)\) が出てきます。ネイピア数の定義
\begin{eqnarray}
\displaystyle e = \lim_{n \to \infty} \left(1+\frac{1}{n}\right)^n
\end{eqnarray}
をまだ未履修の方は、以降の議論の理解が困難となる可能性がある旨、ご了承下さいm(__)m
■\(n \to \infty\) の時の \(f(n)\) の値を求める
先ほど定義した \(f(n)\) について、\(n \to \infty\) の場合を考えてみます。
\begin{eqnarray}
\displaystyle \lim_{n \to \infty}f(n) &=& \lim_{n \to \infty}\left[1-\left(1-\frac{1}{n}\right)^n\right] \\
\displaystyle &=& 1-\underset{ここに着目!}{\underline{\lim_{n \to \infty}\left(1-\frac{1}{n}\right)^n}} \tag{1}\\
\end{eqnarray}
ここで注目したいのが、(1)式の下線部「ここに着目!」の部分です。ここ、ネイピア数の定義の部分に似てますよね?
実は、ネイピア数の定義にはもう1つ重要な定義が存在し、それが以下となります。
\begin{eqnarray}
\displaystyle e^x = \lim_{n \to \infty} \left(1+\frac{x}{n}\right)^n \tag{★}
\end{eqnarray}
寄り道:(★)式の証明
\begin{eqnarray}
\displaystyle \lim_{n \to \infty} \left(1+\frac{x}{n}\right)^n &=& \lim_{n \to \infty} \left(1+\frac{1}{\frac{n}{x}}\right)^n \\
\displaystyle &=& \lim_{n \to \infty} \left[\left(1+\frac{1}{\frac{n}{x}}\right)^\frac{n}{x}\right]^x
\end{eqnarray}
ここで \(\frac{n}{x}=t\) とおくと、 \(n \to \infty\) の時 \(t \to \infty\) となるので、
\begin{eqnarray}
\displaystyle \lim_{n \to \infty} \left[\left(1+\frac{1}{\frac{n}{x}}\right)^\frac{n}{x}\right]^x &=& \lim_{t \to \infty} \left[\left(1+\frac{1}{t}\right)^t\right]^x
\displaystyle &=& e^x
\end{eqnarray}
※ただし、最後の式変形でネイピア数の定義 \(\displaystyle e = \lim_{t \to \infty} \left(1+\frac{1}{t}\right)^t\) を用いた。
(★)式において、\(x=-1\) としたものがまさに(1)式の下線部分となります。ゆえに、(1)式は最終的に
\begin{eqnarray}
\displaystyle \lim_{n \to \infty}f(n) &=& 1-\lim_{n \to \infty}\left(1-\frac{1}{n}\right)^n \\
\displaystyle &=& 1-e^{-1} \\
\displaystyle &=& 1-\frac{1}{e} \tag{2} \\
\end{eqnarray}
という、シンプルな形で表現できます。
上でも書きましたが、ネイピア数 \(e\) は定数であり、その値は約2.71828です。つまり(2)式も定数であり、その値は電卓等で計算すると約 63.22 %と求めることができます。
驚きの結果かもしれませんが、\(n\) の値をどれだけ大きくしても、確率が 63.22 % を下回ることはない、ということになります!
■まとめ:\(n\) が7以上の場合の確率は約63%~66%!
先ほど結論付けた通り、\(n\) の値がどれだけ大きくなっても、確率が 63.22 % を下回ることはない。
また、\(n=6\) の時の確率が約 66.5 % であり、\(n\) の値が大きくなるにつれて確率が低くなるということから、「\(n\) が7以上の場合の確率は約63%~66%程度に収まる」ということが結論付けられます。
もちろん、これまでの議論で正確に上記の結論の証明が出来たわけではありません。

\(f(n)\) が単調減少することをちゃんと証明してないしね。。。
本記事を通して、少しでも確率に対する理解を深めていただけたようであれば嬉しい限りです。
最後まで記事をお読みいただき、ありがとうございました!